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あるひとつの物語

これは、ありそうでなさそうな、でも、ほんとうにあったクリスマスのお話。

彼女は23歳。まだまだ勉強したくて、故郷から遠く離れた土地に来てしまった。
彼女には、3つ年下の彼がいた。

400キロの距離をものともせず、二人は遠距離恋愛の真っ最中。
つきあいも長くなると、喧嘩もするようになる。
だけど、好きだ、という気持ちさえあれば、きっとうまくいく。
彼女はそう信じていた。もちろん、彼も。

誕生日にはちゃんと二人でお祝いをした。
海の見える丘までドライブをし、キラキラ輝く水面をみて、
いつまでもたちつくしていたことを、彼女は今でもはっきりと覚えている。

その年のクリスマス。
彼女は講義がおわるとすぐアルバイトの家庭教師に赴き、
それがすむとすぐさま車に飛び乗った。

彼に会いたい一心で、ビュンビュンと車を飛ばした。
途中、スピード違反で捕まってしまった。
警官が彼女に問いかける。
「ずいぶんお急ぎのようですが、どちらまでいかれますか?」
「熊本まで」
「は?」「それは、、、。運転手さん、ずいぶんお疲れのようですから、気をつけてくださいね。」

疲れがますます重さを増したような気がしたが、
とにかくもうすぐ会えるのだ!
そう言い聞かせてハンドルを握りなおした。

到着すると、うれしくてすぐに彼のいつものたまり場へ直行した。
しかし、何かが違う。よそよそしいその態度は、あきらかにおかしかった。

夜も更け、友人も散り散りになると、二人きりになった。
そこで、ありえないことが起きた。
「もう、自分の気持ちがわからなくなった」
彼に、そう告げられたのだ。
なんと言っていいかわからず、そのとき彼女はこういった。
「そうかー。じゃあ、ゆっくり考えて。」
考えたところで、すでに答えは出ていることはわかっていた。
3つ年上の彼女は、つい強がったのだ。

彼は、彼女を車に残し、去っていった。

楽しいはずのクリスマスなのに!
こんなことがおこるの?

その日はとても寒かった。
外気と、心に吹く風は、どんどんと体温を下げ、
車のヒーターもまったくきかない。
生まれて初めて歯がガチガチと鳴った。

それからどうしたのか彼女はよく覚えていなかった。
気がつくと、親友のアパートに来ていた。
早朝からの勤務のはずなのに、彼女はあたたかく迎え入れてくれた。
朝、でかけるとき、
「私が帰るまで、ゆっくり寝るのよ。この薬、半分だけ飲むの。全部飲んじゃだめ。」
と声をかけてでかけていってくれた。
そのあとのことも、彼女はもううろ覚えなのだが、
ひとつはっきりと覚えていることがある。

当時、もうひとり、親友と呼べる友人がいた。
彼女はもうすでに社会人で、仕事もいそがしいはずなのに、
いつのまにかかけつけてくれた。

普段、激しく感情を表すことのない彼女は、
その日、いっしょに泣いてくれた。

その二人の友人とは、もちろん、今も親友である。

それからしばらくは、クリスマスがくるたび、
心がざわついて、神経がいらだち、早く時よ去ってくれ!
と祈りながらすごしていた。
傷をさかなでするようなあのイルミネーション!
楽しそうな恋人たちをみると、胸がかきむしられるようだった。


それから長い長い時がたった。
時間はよい薬。
少しずつ、恋人をみても平気になり、
少しずつ、イルミネーションをたのしめるようになり、
家族と1年の出来事を振り返り、感謝の気持ちですごす今のクリスマスを、
彼女はとても楽しんでいる。

先日、彼女は、思いがけず親友のひとりとクリスマスのディナーを楽しむことができた。
長い年月をともにすごした親友と、それぞれにおこった出来事を、
お互い懐かしく話し続けた。

誰にでもある、クリスマスの思い出。
胸をえぐられた記憶も、今では、あるひとつの物語。

by 93hossy | 2009-12-25 04:53 |

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