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詩人と弟子のおはなし・2

弟子はまだ恋をしている。

ときたま、嵐のように心が苦しみ始め、
岸壁にあたって砕け散る波頭のように
ばらばらになりそうな気がするのだ。

そんな時、弟子は詩人に問うてみる。

「先生、どうにも苦しくてしかたありません。
どうにかこの思いを静める方法はないのでしょうか。」

「片思いとは、思いがどうにもならないのが基本です。
届けたくても届けられない。
それで苦しいのが普通なのです。
こんな風なやりとりも有効です。
お酒を飲みながら聞いてもらうのもいいでしょう。
苦しい思いをかみしめるのです。」

「かみしめるのですか、、、。そうですか。」

「私も5年間片思いをしていたことがあります。
その間、私の心は鍛えられました。
変な話ですが、
今、絵描きとしての自分の評価が思いのほか低くても、びくともしないのは、
このときの片思いの経験が役に立っているのです。」

「先生も片思いをされたことがあるのですか。
5年は長いですね。

わかりました。私も気持ちを鍛えてみようと思います。
なんだか、また先生と会いたくなりました。
どうか、また苦しくなったら話を聞いてください。」

「恋はいいものです。おやすみなさい。」

少し楽になった弟子は、また今日も恋をかみしめる。
いつまでも続くのだろうか。
そしてこころは鍛えられ、鋼のようになるのだろうか。

鋼になったとしても、かの人の声で小さく震える鐘でいたい。

by 93hossy | 2010-10-06 19:37 | その他

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